ご利益チョコレート


恐る恐る顔を上げると、少し厳しい視線を向ける国島さん。


「昨日は何ともなかったやろ」


「はあ……」


「西林?」


「昨夜、階段から落ちまして……」


「階段から……ね」


ふうんと納得したんだかしていないんだか、徐に国島さんが手を差し出した。


「は?」


「荷物、松葉杖ついてたら邪魔やろ。よこし」


「大丈夫ですよ」


「ええから」


そう言ってわたしの肩からトートバッグを取り上げる。


「おぶるか?」


「とんでもない!歩けます!」


慌てて松葉杖をついて、会社のエントランスへと向かった。わたしのスピードに合わせてゆっくり歩いてくれる。


優しい。
優しすぎるんだ。
この人は。


そしてその優しさは誤解を生む。
自分だけに向けられるものではないか、
その裏には好意があるのではないかーーと。



違うのに。



2年前、京都に本社がある機械メーカーの入社2年目。わたしは少し辛い目にあっていた。
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