ご利益チョコレート
「西林?」
エレベーターの開ボタンを押した国島さんが呼ぶ。
いけない、ボンヤリしてた。
「すいません!」
「急がんでええ、転んだら大変や」
国島さんが行先階ボタンを押す。
「帰り、家まで送ったる。オレの仕事が終わるまで待ってろ」
「へ?いやいや、大丈夫ですよ?会社の前でタクシー拾いますから。折角のバレンタインをわたしのために使わなくても」
多田さんに悪い……という言葉はかろうじて飲み込んだ。
「バレンタイン?そんなもんどうでもええやろ。チョコレート貰うだけやろが」
ずくりーーーーー胸の奥が痛む。
結婚が決まった二人にはバレンタインなんてスルーできる行事なんだろうか。
「兎に角待ってろ」
「…………はい」
出勤してくる人達が一様にわたしを見て驚き、同情してくれた。そのせいか仕事も手助けが多く、割に早く終わった。
「詩史ちゃん、地下鉄とバスだっけ?駅まで送ろうか?」
多田さんが声をかけてくれる。
「あ……あの……国島さんが送ってくれるって」