ご利益チョコレート
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「西林、終わったか?」
なんとか気持ちを立て直して、資料庫からオフィスに戻ると殆どの人がもう居ない。
「あ、国島さん、すいません、わたし待ちでしたか?課長は?」
「なんや嫁さんが風邪ひいて熱出したって慌てて帰った」
ああ、なんてタイミング悪い。
今、いちばん会いたくなかった人なのに。
自分のデスクの上を片付けて、帰る準備をさっさとしよう。
「西林」
思いがけず、すぐ近くで声がしてビクリと身体が強ばった。
左側を見ると訝しげな国島さん。
ギリギリ150センチしかないわたしの20センチ上にある顔。少し身を屈めるようにしてわたしの顔を覗き込む。
「……目が赤い」
目敏い。
「さっき、コンタクトにゴミが入ったみたいで痛くて……」
咄嗟に目を擦ろうとすると、その手首をつかまれた。
「擦ったら余計ひどいことなる」
少し癖のある、短く切られた黒髪。
細面にのせられたメタルフレームのメガネが知的な雰囲気を醸し出す。