ご利益チョコレート
さっき立ち聞きしてしまった内容が頭の中に蘇った。
「あーーーっ!セクハラ!」
小気味良くカツカツとヒールの音を鳴らして近づいてくる、もう1人の当事者。
「大丈夫ー?詩史(しふみ)ちゃん、ヤラしいことされてない?」
ゆるくパーマをあてた、ショートボブの髪が揺れ、耳に小さなダイヤのピアスが見えた。スラリとした細い足にパンツスーツが良く似合う。
「失礼なこと言うなよ、多田」
「なによー、教育係の特権振りかざして詩史ちゃんにイタズラしてないでしょーね?」
するりと手首から手が離れた。
「されてないですよ」
へらりと笑う。
ホントは少しくらいして欲しいのに、と続けたい言葉を飲み込んで。
「これから国島と飲みに行くけど、詩史ちゃんも一緒にどう?」
輝くばかりの美しい笑顔。
国島さんはちょっと困った顔。
心配しなくても、そんな無粋な女と違います。
二人っきりで行きたいんですよね。
「お誘いは嬉しいですけど、今日は明日に備えてやることあるんで」