平然と嘘

正直、罪の意識なんか
まったくなかった。

最初の時も
本来なら、私が純也と結婚していた
はずなんだから・・・・・と。
妊娠していようが
なんともおもわなかった。
自分に子供もなくて
わかっていなかったのだ。

ただ、純也と二人で
楽しく、幸せなら良かった。

純也が奥さんの家に戻ると寂しかったが
私の方が、純也と長い付き合いだし
純也も私といると
いつも、求めてきていたから
奥さんとは、そんなんでも
ないんだと思っていた。

二回目に再会したときは、
前回の不甲斐なさを罵ったが
「仕方ないだろ。俺が悪いんだから。」
と、言う純也が
可哀想になり、抱き締めてしまった。

それからは、また、怒濤の如く
愛し合い、おままごとのような
生活が始まった。

純也は、私が片付けられなくて
散らかしてようが
食事が惣菜であっても、
簡単でも、なにも言わなかった。

それは、
自分の家ではないからだろうが
その時の私には、わからずに
ただ、純也は優しくて
私の事を理解してくれていると
勝手に思っていた。

バカ・・・・・だ・・・・・・

出張だ、休出だと
会いにきてくれて
一緒に旅行に行ったり
食事に行ったり
一日中、ベッドで抱きあったり
そんな八年を過ごしていた。

奥さんより私を愛してくれて
いつかは、私と一緒になると
そんな風にしか考えていなかった。

奥さんの苦しみや、
息子さんの悲しみなど、
まったく考えていなかった。

50も、近くなった大人が
そんな常識もわからなくなって
快楽に溺れてしまうなんて
ましてや年老いた
両親に迷惑をかけて
泣かすなんて・・・・・

それから、私は
仕事を辞めて、アパートを引き払い
住み込みで働ける旅館で働きながら
内職もして、両親に少しずつ
お金を返した。

55歳になったとき
母が亡くなり
叔母からの連絡で父の元にいくと
父は、小さくなっていた。

叔母から、母親が
「夕紀が、頑張って働いていると
嬉しそうにしていたよ。」
と、教えてくれた。

葬儀が終わり
旅館に戻る日、父から
「実は、笹川さんから
お金は返されていたんだ。

家庭を壊したのは、元夫である
純也さんだが。
一度ならず二度までも
同じ過ちをおかす娘さんには
罪の意識がないと思いますから
お金を返した事は、言わないで下さい。
と、言われたんだ。

あの人・笹川澪さんは、
両親を亡くしていてな
いくら憎い人でも
お父さんやお母さんには、
なんの罪もありませんので
お父さんやお母さんが働いたお金は
頂けませんと言ってくれたんだ。」
と、話してくれた。

びっくりしたが
温かな気持ちになった。
当時、それを知っていたら
私は、また、同じ事をしていただろう。
なんの罪の意識も
感じてなかっただろう。

父が
「ありがたく思いながら
母さんと温泉に行ってきたんだ。
お前のいる旅館にも行こうな
と、話していたんだ。」
と、言うのを聞いて
私は、声をあげて泣いた。
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