舞姫-遠い記憶が踊る影-
市について、あれがない、これももうじきなくなるだろうと必要なものを確認して一通りの買い物をすませていく。
天気はいつまでも続かない。
雪がいつ降り出すかもわからない、足が悪くなる前に大きな買い物もすましてしまいたい物だけれど如何せん、食料品に関しては悪くなってしまっては元も子もない。
使用する分、保存しておける分、加工して保存食にする分と細々と確保して、またなくなる前に買いに来なければいけない。
手間ではあるものの、街の人との交流の場でもある市という場所がアタシは好きだ。
顔を上げると、港には波が打ち付け、飛沫を上げていた。
夜の闇に紛れてしまう海も、日中は光が反射してその雄大な姿を見せてくれる。
その上を海鳥が翼を広げて自由に飛び交う。
見慣れた風景に、タキがいるという違和感は、もうアタシも感じない。
いつも通りの日々がタキという新しい風を迎えて、塗り替えられていく。
タキと過ごしているこの日々が、いつも通りの日々になっていく。
あっという間に日々は流れていくのに、ゆったりと空気が流れるのは不思議な感覚だった。
買い物を済ませた帰りに、ちょうどレイに出くわした。
「よう、カレンにタキ」
「あぁ、レイ」
「良い日だね」
「おうよ。だがまた明日あたりから雪が降るだろうよ」
「おや?レイが言うなら間違いないだろうね」
「大きな買い物を済ませてしまえて良かったね」
「夜にでもまた店に顔出しに行くぜ」
「待ってるよ」
簡単な会話を会釈して終えると、再び歩き出す。