舞姫-遠い記憶が踊る影-

今日は早々に帰宅して子供たちにプレゼントの準備をしてあげるのだろう。
大柄なレイがこっそりと子供部屋に入りプレゼントを準備するその様子を想い浮かべて、笑みが落ちる。
この街の住人たちは皆、家族のようなものだ。
誰もがアタシの事も、両親、祖父母に至るまで知っている。
けれども、全てを知っているからこそ胸に疼くものもある。
毎年クリスマスには家族を想って、羨ましさや切なさも感じていたのを誤魔化していたけれど、今日はいつもと違う。
羨ましさや切なさは今もある。
けれど同時に、優しさも胸に灯るようで温かい。

レイを見送って、店の喧騒の中へと再び戻ると、まだまだ飲み足りない輩たちが、そこかしこでタキにギターを乞うている。
タキはもう、すっかりこの街に馴染んでいる。

「タキ、せっかくのクリスマスだ。1曲プレゼントしてあげな!」

アタシがそう声をかけると、笑顔で受けて、ギターをとり演奏スペースへと足を進めていく。
客達からは拍手や指笛が鳴る。
タキは考えるようにひとつポロン、音を鳴らせてから軽快な演奏が始まった。
穏やかな曲ではなく、賑やかな曲で、すぐに手拍子が盛り上げる。
アタシはその音を聴きながらカウンターの中に入り、客からの注文を作っていくことにした。

「カレンさん、お疲れ様。良かったらこれ」
「あぁ、ありがとう。踊った後だからね、喉が渇いていたんだ」
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