舞姫-遠い記憶が踊る影-
深夜に外にいるのは本当に今すぐ気でも必要な急用……例えば、家族が瀕死の状態で医者を呼ぶだとか、あるいは、街の外の人間だろう。
もっとも、街の人間が商いをしていないのだから外の人間も夜に出歩くことはほとんど無いが。
「さて。ドーシャおじさん、仲間と過ごす時間も大事にしているのは素敵だが、そろそろミリエッタおばさんが首を長くしてるんじゃないかい?エリーゼ、またマックスに内緒で来てるんだろ?こんな日に喧嘩は駄目だ。今ならまだ帰る前にひと目見て、仲直りするくらいの時間はあるよ」
店内をぐるりと見渡して目についた常連客達にチラホラと声をかけると、皆一様に時間に気がついたようで、心当たりの者はドリンクを飲み干して帰り支度を始めた。
その様子を見て、うんうんと頷くと、目の端にタキがホッとした表情を見せていたのが映った。
残っているのは今少し、時間に余裕のある人たちだけで、最後のドリンクを味わってから帰るようだ。
カウンター横ではハンナが忙しそうに代金を受け取っている。
アタシもそこに顔を出してハンナを手伝う。
マリィとジェイムズはテーブルをとにかく少しでも片付けてくれている。