舞姫-遠い記憶が踊る影-

店の前から広場までの道を舞いながら進む。
この日の為だけの白いフリルの衣装を纏い、靡かせ、この日の為だけの舞を捧げる。
足元の鈴、手元の腕輪が舞うたびに軽やかな音を奏でている。
やがて広場に辿り着くと、ギターを構えたタキが待っていた。
数週間前にはクリスマスマーケットが開かれていた広場には、太陽と月を模したモニュメントが置かれ、少しせり上がった舞台には波を模した模様がある。
太陽と月のモニュメントの下には机と、その上には花瓶が一つ。
タキの手には一本の赤い薔薇。
アタシはそれを受け取ると、舞台の中央へと足を進めた。

“年始の踊り”は代々、アタシの家の女がこの踊り子の役を担ってきた。
婆様も、母様も、例外なく踊ってきた。
アタシがこの踊りを舞うのは、今年でもう何度目になるだろう。
毎年皆の歌に乗せて舞うけれど、今年はもう一つ重なる音がある。

―――ポロン……

溢れる優しいギターの演奏に乗せて皆が歌い、そしてアタシが踊る。
心地が良い。
まるで心さえも舞うようで、足取りが軽い。
ふわりふわりと髪が舞う。
ばさり、蹴り上げるようにスカートのすそを躍らせる。
鈴がなり、皆の顔にも笑顔が浮かぶ。

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