舞姫-遠い記憶が踊る影-

「やぁ、いらっしゃい!カレン、タキ」
「あぁ、ライク。今日はまたいい天気になったね」
「おかげさまで客足も上々だよ」

買い出し用のメモを確認してあれやこれやと必要なものを頼んでいると、横からタキにひょいと声をかけられる。

「カレンさん、ジャガイモも少なくなってなかった?」
「あぁそうだったね。ジャガイモもお願いするよ」
「はいよ、まいどあり!」

ライクが手際よく頼んだ品を包んでくれる。
手を動かしながらも「最近は子供たちが……」なんて、ひっきりなしに口が動く。
アタシ達はその様子を相槌を打ちながら待っている。

最近は街の皆が「タキの演奏は素晴らしいね」と話しかけるもんだから、以前のように屈託のない笑顔を見せる機会がめっきり減り、照れている姿ばかりを目にしていた。
その様子にそれはそれで皆一様に「普段のタキや、あの演奏をしているタキとは別人のようだね」と笑うのだけれど、タキとしてはやはり落ち着かない、というのが正直なところなのだろう。
その点ライクは世間話を「な、そうだろ?タキ」と、うまい具合にタキにも話を振るもんだから、この店にいるタキは随分と口数が多くなる。
ライクはよく店にも来るし、とりわけタキが話をしている相手でもあるから、演奏が良いのはもちろん知っているがそれを褒められることに恐縮するタキの性格をよく知っているのだろう。
品物を受け取ってもしばらく世間話をして楽しい時間を過ごす。
この店で話しているタキは、やはり自然だ。
そんなタキを見るのが嬉しかった。


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