舞姫-遠い記憶が踊る影-
様子のおかしなタキに声をかける。
「……タキ?どうしたんだい?」
「あっいや、なんでもっ……」
後ろ姿では表情は確認できないが、明らかに動揺している。
その姿に思わず立ち上がり、タキのもとへと向かう。
「タキ?大丈夫かい?」
肩に手を添え声をかけると、その肩がビクッと大きく動く。
そしてアタシの手を払い退けて、バッと手で顔を覆い、頭を振って下を向いた。
同時に大きく、けれど震える声で、叫びともとれる声を上げた。
「来ないでくれ!見るな、オレを見るな!!」
何事かと驚くが、タキの体は未だ変わらず震えている。
カタカタと、小刻みに震えている。
払い退けられた手よりも、その姿のほうが胸に痛い。
「見ちゃだめだ、見ないで。見ないでくれ……」
次第に小さくなっていく声が、何かに怯えているようだ。
アタシはもう一歩、タキに歩み寄りぎゅっとその体を抱きしめた。
「タキ、大丈夫だ。大丈夫だよ」
そっとその大きな背中をなでる。
大きな背中は、今はただ震えていて、まるで小さな子供のようだ。
「タキ、大丈夫だよ。こうして抱きしめていれば、タキの顔は見えないさ」
だから大丈夫だと、その震えが収まるまで抱きしめ続けた。