舞姫-遠い記憶が踊る影-
じっと、じっと見つめる。
わずかにその瞳が、揺らいでいるように見える。
胸が、苦しい。
口の奥が乾くけれど、カップに手を伸ばすこともできないほどアタシは今緊張している。
その瞳から、目をそらすことなどできなかった。
「……俺のせいで、殺された」
先に目をそらしたのは、タキだった。
ぎゅっと握られた手は、ゆるむことなく。
脳裏には当時を思い出しているのだろうか、ぐっと口を噛んで、苦しそうにしている。
痛々しくて、堪らず席を立ち、固く握られた拳に手を伸ばす。
重なる手の熱にビクリと体を揺らしたから、アタシは離すまいとぎゅっと握りしめる。
タキは顔をあげて、ふわりと力なく、けれども優しく、笑った。
「いくつの時だったかな、まだ学校にも行く前だったのは確かだけれど。家族で初めての外食をした帰り道だった。それまでは夜に外に出歩くなんてことは無かったからね。嬉しくなったんだろう。その日はよく晴れてた。何とはなしに空を見上げたら、まん丸の月が浮かんでた。それまでだって満月の夜は何度もあったのに、家族の誰も気づかなかったなんて不思議なものだよな……」
硬い拳とは対象的に淡々と話している。
それが返って痛々しい。
「満月を見て楽しくなった俺は両親に喜々として言ったんだよ。月が丸くて綺麗で、それを伝えたくて……だけど俺の顔を見た両親の顔は青ざめていた。そして同時に強い恐怖と困惑を感じていた。隣にいた兄さんは……、兄さんは俺のことを見て『化け物だ』って言ったんだよ」
親兄弟から向けられた驚愕の眼差しは小さなタキに大きな傷を負わせたことだろう。