舞姫-遠い記憶が踊る影-

「それからかな、隣のおばさんが俺の瞳のことを言ったんだろう。噂ってのは簡単に大きくなるよな。俺達家族は村で肩身を狭くして暮らした。なんだろうな、悪いことって続くもんだよな……。裕福だった村が、崩れだしたんだ。何日も雨がなくて、日照りが続いた」

天候というのは人智を超えたものだ。
人の手でどうにかできるものではない。
畑はやせ細り、作物は実らず。
飲み水さえも、やっとの思い。
蓄えは徐々に減って行く。
何かのせいにしなければ、やってられない。
そんな想いが、村の人々の胸中を駆け巡ったのだろう。
容易に想像ができる。

「いつしか矛先は俺に向いていた。その金の瞳が災いをもたらす存在だと凶作に災害、全てを俺のせいにされて。……村にはもう、とても住めなかった。俺一人を追い出してしまえば良かったかもしれないのに、両親も兄さんも、俺を追い出すという選択はしなかった。家族でひっそりと村を出て山で暮らすようになったんだ。じいさんは移住する前、山で暮らしていたからね。その小屋がまだ残ってたんだ。不自由は無いことはないけれど、それなりに過ごすことはできたよ。そんな風にして、逃げるように。10年近く、山で暮らしてた」

タキがこちらを見て、くすりと笑った。

「……そんな、泣きそうな顔をしないで。過去の、……そう、過去の話だよ」

笑ったはずのその顔は、切なくて揺れていた。

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