舞姫-遠い記憶が踊る影-

はじめの船が寄港してから数日。
アタシ達はいつものように、店に必要なものを買い出しにライクの店へと足を運んでいた。

「やぁカレン、タキ!」
「おはよう、ライク。今日も船が帰ってきたね。最近は忙しいだろう」
「お蔭さまでね。カレンの店にもきっとまた流れ込むぞ」
「ありがたいことだね。今から支度しないといけないよ」

なんでもないやり取りでいつもより賑わう街中を話す。
手際よく商品を詰めてくれて、代金と引き換えるとライクはおまけに世間話を一つ。

「はいよ。あぁそうだ、隣の国の噂話を聞いたか?」
「いや、聞いてないね」
「なんでもちっちゃい村の話らしいんだけどよ。役人が逃げた男を躍起になって追いかけてるらしいんだ」

遠方から無事に帰ってきたみんなが、返ってきたその日から店に集まってくるのは、毎度の光景だ。
そして、帰ってきたみんながこの港町に、方々の旅先で得た色んな情報を持って帰ってくるのもまた、いつものこと。
ライクはそんな情報の一つとして話を繰り出したのだろう。
いつもなら次々に話される情報を「そうか、そうか」と相槌を打つくらいで、聞くともなしに聞いていた。
けれど、今年はどうにも耳についてくる。

それを聞いても、平静を装うくらいしかアタシにはできないけれど。
タキもまた同じく、いつも通りの顔をしているのだけれど。

「どうやらこの近くまで追いかけてきているらしいぞ。まぁそいつがこの街に来たとしても流れ者が多いこの街で見つけるなんて至難の業だよな」

そう言って見送られ、アタシ達は店へと帰る。
お互いにあくまでもいつも通りに。

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