……秘密があります
 いや……、精神的に襲われている。

 今、まさに、と思いながらも、羽未は震える指先で、引き出しを開け、割り箸を取り出した。

 数年生きるというこの蜘蛛がなんで今、此処で死んでいるのか、考えるのが怖い。

 老齢の蜘蛛であって欲しい……。

 待てよ。
 そういえば、ゴキブリをとるのは蜘蛛。

 蜘蛛をとるのはなんだろう。

 蛇とか?

 いや、今、蛇のおいでを願うくらいなら、やっぱり自分で取った方がいいなと思う。

 いや、蛇が蜘蛛食べるかは知らないのだが……。

 羽未は身を屈め、冷蔵庫と流しの隙間に落ちている大蜘蛛を頑張ってつまもうとしたが、うまく箸でつまめず、蜘蛛の身体がずるりと箸から落ちる。

 ぎゃーっ。

 もう一度つまむと、今度は蜘蛛の細い脚だけが箸に引っかかってつまめた。

 ぎゃーっ。

 つまめても、つまめなくても、羽未は心の中で悲鳴を上げる。
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