……秘密があります
 落とさないように、そうっとそれをゴミ箱に向かって移動させた。

 ぎゃーっ、とまだ叫びながら、箸の先で、ぷらぷらぶら下がって揺れている蜘蛛をちょっぴり移動させ、ペダルを踏んでゴミ箱を開ける。

 やったっ。
 あとは落とすだけだっ。

 これで私も立派な主婦だっ! と思ったとき、ガチャッと給湯室のドアが開いて、

「ちょっと羽未。
 なにやってんの?

 支社からの荷物が届いてるのに」
と阿佐子の声がした。

「あっ、すみませんっ」
と顔を上げた弾みに、箸の先が少し動いて、かろうじて引っかかっていた蜘蛛の脚が外れ、蜘蛛が落下していくのが見えた。

「あーっ!」

 いやあああああっ、と阿佐子も悲鳴を上げる。

 羽未の足の甲に巨大蜘蛛の死体がぺったり乗ったからだ。
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