君のキスが狂わせるから
近しくなれるのは嬉しいけれど、弱った深瀬くんの心に入り込もうとは思わない。
(だって、そんなの卑怯な気がする)
こんな時にも私は変な美学に囚われている。
人の心は計算通りにはいかない。
だからこそ、チャンスがあったら逃さないことが大事なのに。どうしても、今の深瀬くんにさらなる優しさで近づこうとは思えなかった。
「深瀬くん、私……そんなに優しい人間じゃないよ」
「……どういう意味ですか」
深瀬くんの瞳が暗闇でも揺れているのがわかる。できるなら、心から優しい言葉をかけてあげたい。
なのに、私の口から出たのは、ありきたりな乾いた言葉だった。
「今は辛いだろうけど……ゆっくり傷を癒したら、きっとまた新しい恋ができるよ」
この言葉に、深瀬くんはふっと小さく笑った。
「愛原さんって……どうして、肝心な所でそういうテンプレなこと言うんですか」
「……っ」
鋭い視線に見上げられ、背中がぞくりとなる。
私は彼を「年下の男性」という前提で常に意識している。そのせいで、同年代の人に話すより理解のある風な言葉を選んでいるのかもしれない。
「じゃあ、今の深瀬くんはどんな言葉を望んでるっていうの?」
「……愛原さんらしい言葉です」
「私らしい?」
首を傾げると、深瀬くんは少し柔らかい口調に戻って続けた。
「あなたは、表情が素直だから。見ていると本音が分かって安心するんです。だから……こんな情けない話しも打ち明けられたのかも」
(表情が素直……言葉と表情に矛盾があるってことなの)
自分では本当の自分は見えない。
どれだけ内観してみても、自然体の自分がどんななのか、実は何もわかっていないのかもしれない。
それを正面から突きつけられ、私は沈黙した。
(だって、そんなの卑怯な気がする)
こんな時にも私は変な美学に囚われている。
人の心は計算通りにはいかない。
だからこそ、チャンスがあったら逃さないことが大事なのに。どうしても、今の深瀬くんにさらなる優しさで近づこうとは思えなかった。
「深瀬くん、私……そんなに優しい人間じゃないよ」
「……どういう意味ですか」
深瀬くんの瞳が暗闇でも揺れているのがわかる。できるなら、心から優しい言葉をかけてあげたい。
なのに、私の口から出たのは、ありきたりな乾いた言葉だった。
「今は辛いだろうけど……ゆっくり傷を癒したら、きっとまた新しい恋ができるよ」
この言葉に、深瀬くんはふっと小さく笑った。
「愛原さんって……どうして、肝心な所でそういうテンプレなこと言うんですか」
「……っ」
鋭い視線に見上げられ、背中がぞくりとなる。
私は彼を「年下の男性」という前提で常に意識している。そのせいで、同年代の人に話すより理解のある風な言葉を選んでいるのかもしれない。
「じゃあ、今の深瀬くんはどんな言葉を望んでるっていうの?」
「……愛原さんらしい言葉です」
「私らしい?」
首を傾げると、深瀬くんは少し柔らかい口調に戻って続けた。
「あなたは、表情が素直だから。見ていると本音が分かって安心するんです。だから……こんな情けない話しも打ち明けられたのかも」
(表情が素直……言葉と表情に矛盾があるってことなの)
自分では本当の自分は見えない。
どれだけ内観してみても、自然体の自分がどんななのか、実は何もわかっていないのかもしれない。
それを正面から突きつけられ、私は沈黙した。