君のキスが狂わせるから
この日、会社では深瀬くんと顔を合わせることもなく、無難に1日が過ぎた。
それでも「もし会ったらどんな顔をしたらいいだろう」なんて考えると、仕事への集中力が途切れそうになる。
(今日はちょうどミホ先生の講座がある。助かったな)
ミホ先生は私にヨガの楽しさと奥深さを教えてくれる師匠のような存在だ。
姿勢も綺麗で顔の張りもピンとしているけれど、人生経験を積んだ人独特の重厚感あるオーラを放っている。
『美魔女』
これが“重ねた年齢を美しさに変えた人”という意味なら、ミホ先生はまさに美魔女と言うにふさわしい人だろう。
この日も、心地いいレッスンの最後に彼女は独特の人生哲学を少しだけ話してくれた。
「皆さんにとって、幸せな人生ってどんなですか?」
(幸せ……一言では難しいな)
「様々な幸せのかたちがあると思いますが、私にとっての幸せは“自分を偽らずに生きていられること”ですね」
先生はにこりと微笑み、スタジオにいる皆を見回す。
学校の教壇に立つ先生と違って、ここでは先生も私たちと同じ目線だ。だからか、言葉が胸に真っ直ぐ入ってくる。
(自分を偽らない……先生らしい素敵な答えだな。私は、好きな人と一緒にいられたらそれで幸せのような気がするけど。答えとしてはまだ浅いかな)
こんなことを考えていると、先生はさらに続けた。
「心で感じることを無視せず、その感じたことをしっかり味わってください。それが辛いことでもです。目を背けず、しっかり自分に向き合えば、答えは自分の中に眠っているはずですから」
「私はまだ、先生のように正解を見つけられません」
生徒の一人がそう声を漏らす。
私も同じ気持ちだったから、心の中で共感した。
すると先生は、その言葉を漏らした生徒さんに小さく笑みを返した。
「“まだ正解が見えない”と感じるそのもどかしさを感じるのも、自分と向き合うことの一つです。ちなみに、私は“完璧な正解”はないと思っています。だから、どんな結論も自分にとっての正解です。例え誰に味方になってもらえなくとも、自分だけは自分の味方でいてくださいね」
(自分だけは……自分の味方)
先生の柔らかな声と言葉が胸の奥に迫り、思わず目頭が熱くなる。
(やだ……私、なんで泣いてるんだろう)
薄暗いスタジオでは、涙を流していても汗に紛れてほとんどバレることがない。
だから私は理由もわからず、汗と一緒に涙も流れるままにした。
それでも「もし会ったらどんな顔をしたらいいだろう」なんて考えると、仕事への集中力が途切れそうになる。
(今日はちょうどミホ先生の講座がある。助かったな)
ミホ先生は私にヨガの楽しさと奥深さを教えてくれる師匠のような存在だ。
姿勢も綺麗で顔の張りもピンとしているけれど、人生経験を積んだ人独特の重厚感あるオーラを放っている。
『美魔女』
これが“重ねた年齢を美しさに変えた人”という意味なら、ミホ先生はまさに美魔女と言うにふさわしい人だろう。
この日も、心地いいレッスンの最後に彼女は独特の人生哲学を少しだけ話してくれた。
「皆さんにとって、幸せな人生ってどんなですか?」
(幸せ……一言では難しいな)
「様々な幸せのかたちがあると思いますが、私にとっての幸せは“自分を偽らずに生きていられること”ですね」
先生はにこりと微笑み、スタジオにいる皆を見回す。
学校の教壇に立つ先生と違って、ここでは先生も私たちと同じ目線だ。だからか、言葉が胸に真っ直ぐ入ってくる。
(自分を偽らない……先生らしい素敵な答えだな。私は、好きな人と一緒にいられたらそれで幸せのような気がするけど。答えとしてはまだ浅いかな)
こんなことを考えていると、先生はさらに続けた。
「心で感じることを無視せず、その感じたことをしっかり味わってください。それが辛いことでもです。目を背けず、しっかり自分に向き合えば、答えは自分の中に眠っているはずですから」
「私はまだ、先生のように正解を見つけられません」
生徒の一人がそう声を漏らす。
私も同じ気持ちだったから、心の中で共感した。
すると先生は、その言葉を漏らした生徒さんに小さく笑みを返した。
「“まだ正解が見えない”と感じるそのもどかしさを感じるのも、自分と向き合うことの一つです。ちなみに、私は“完璧な正解”はないと思っています。だから、どんな結論も自分にとっての正解です。例え誰に味方になってもらえなくとも、自分だけは自分の味方でいてくださいね」
(自分だけは……自分の味方)
先生の柔らかな声と言葉が胸の奥に迫り、思わず目頭が熱くなる。
(やだ……私、なんで泣いてるんだろう)
薄暗いスタジオでは、涙を流していても汗に紛れてほとんどバレることがない。
だから私は理由もわからず、汗と一緒に涙も流れるままにした。