君のキスが狂わせるから
(流石にこれはやりすぎだよ、先輩)
「私がもっと早くに行ってればよかった……ごめん」
「白々しいですよ。愛原さん、村上さんと俺を二人きりにさせたかったんでしょう?」
「えっ」
睨むような視線に身がすくむ。
そんなことするはずがない、単純に待ち合わせの時間がずれてしまっただけだ。
「違う。私、少し遅い時間を知らされてて……それで、今からマリンバに向かおうとしてたんだよ」
必死に自分の事情を話すと、彼は視線の鋭さを少し和らげた。
「失恋した俺に、余計な気を回した……って訳じゃないんですか」
「当たり前でしょ。私、そんな無神経なことしないよっ」
あまりのあり得ない話に、思わず声のボリュームが上がってしまう。
すると、深瀬くんはふっと息を吐いて肩を落とした。
「愛原さんの言葉、信じていいんですか」
「うん。私は深瀬くんを美桜先輩と二人きりで会わせようなんて思ってなかったよ。信じて」
「……」
じっと私の目を見据えた彼は、ポケットから自分の名刺を出してそこに何か書き込んだ。