君のキスが狂わせるから
「はい、これ」
差し出された名刺の裏には、深瀬くんのラインI Dの他にメールのアドレス、携帯の番号までが書かれていた。
「村上さんにはここに書いた情報、一つも教えてないです。求められても、応えられないことってあるでしょ」
「それは……そうだよね」
(美桜先輩、一体何を言ったの)
困惑している私の手に、彼は強引に名刺を握らせた。
「愛原さんの目を見たら、あなたが嘘をついていないって分かりました。だからこれ、受け取ってください」
「う……ん、ありがとう。でも、いいの?」
こんなプライベートな番号を受け取っていいものか、躊躇してしまう。
「愛原さん、かなり危なっかしいんで、個人的に心配なんです」
「……っ」
心配だと言った深瀬くんの瞳は慈愛に満ちていて、胸の奥がじわっと熱くなる。
年下であるはずの彼が、まるで私よりずっと年上のような空気を醸したように感じたのだ。
(こんな安心感……今まで一度も感じたことない)
「私の……何が心配なの」
あえて冷静を演じながら尋ねると、彼は視線をやや上向かせながら答えた。
「素直でお人好しで、義理人情に厚い。そういう部分は人間として素敵だと思います。でも、リリースすべき人間関係にも執着する傾向が見えるので……そういうところが心配ですね」
視線を戻した彼と目が合い、ドキリとなる。
(元カレの事……聞いたわけじゃないよね)