君のキスが狂わせるから
「私と彼女は違う人間だよ」
「当たり前ですよ。それくらい当然わかってます。むしろ彼女と愛原さんは、性格としては真逆の人だったかもしれません」
「真逆?」
「はい。彼女は男性を求めていませんでしたから。芯から強いっていうか、俺の方が励まされてることが多かったですし」

(つまり私は男性を必要としていて、弱そうに見えているっていうことかあ)

 外れてはいない。
 実際、私は誰か頼れる人が欲しいと思っているし、それが人生を歩むパートナーならなおのこと嬉しいと思う。

「じゃあ……私の何がよかったの?」
「あなたが俺を求めてる目……かな」
「……っ」

 艶を帯びた瞳で見つめられ、思わずドキリとしてしまう。
 この嘘のない視線が私の心を簡単に操ってしまうのだ。
 それが、どうしようもなく悔しい。

「素直だし可愛いし。なんか、ぎゅってしてあげたくなるんですよ。前の彼女にはできなかったことです」

(待って、待って。それ以上言われると、私も冷静でいられない)

「わ、私だって年上だよ? それなりに、立場をわきまえてるつもりだし……遊び相手にはなってあげられない」

 好意を示されるのは、嬉しくないわけではない。
 でも、やっぱり、気まぐれで付き合われて振られるのが何より怖い。

「年齢で差別してるのは、愛原さんの方じゃないですか」

 深瀬くんの凛とした声が、ほろ酔いの頭に響く。

「別に遊びで告白したわけじゃないです。若いからとか、未来があるからとか。そういう言葉で遠ざけられるのは、納得いかないです」

 女性には絶対困ってなさそうな深瀬くんだが、意外にも恋愛はあまりうまくいかないことが多いと打ち明けた。
 普段は誰にでも塩対応の彼だけど、心を許すと甘えたり脆い部分も見せたりするため、ガッカリされることが多いのだそうだ。

(え、甘える深瀬くんとか、最高に可愛いと思うけど)

「今まで、そんな風にして振られることが多かったの?」
「そうですね……やっぱり子どもっぽさを見せられると、ガッカリするんでしょうね」

 彼はきっと甘えた彼も受け入れる、成熟した女性を求めているんだろう。

 ただ、成熟した女性というのは潔い人も多い。
 過去、彼を鮮やかに振ってきた女性たちも、きっと相当に成熟していて素敵な女性だったろう。

 深瀬くんに冷めたとかではなく、彼の未来を考えたら自分じゃない方がいいと考えたんじゃないだろうか。
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