君のキスが狂わせるから
潔く、すがらない。
それが粋というものだ。
お互いに幸せになれる道が見えたら、そこへ素直に移行できるしなやかさがある人は美しいと思う。
でも、私がもし深瀬くんと恋人だったら、これまでの恋人のように潔く引けるだろうか。
アラフォーの女性に課せられた恋愛の美学を貫くのは、なかなか難しい。
***
その後はその場で話す言葉も思いつかなくなり、私たちはお酒を飲みきったタイミングで店を出た。
2月の夜はまだまだ寒く、息を吐くと空気が煙のように白くなって流れていく。
私はコートをぎゅっと前で合わせて軽く背をかがめた。
「まだ風、結構冷たいね」
笑いを誘うつもりで深瀬くんを見たけれど、彼は真っ直ぐな真剣な目で私を見ていた。
「深瀬…くん?」
「愛原さん。どうしたら俺を受け入れくれますか」
「え……」
(夢でも見てるのかな)
これまでの人生で、こんな薔薇色の展開は一度もなかった。
すぐには信じがたい。
「す、すぐには、決められないかな」
「時間が必要なら、待ちます。どれくらいの時間が必要ですか?」
「…っ、ええと…」
これが若いということなんだろうか。
想像以上にグイグイ来られて、戸惑うばかりだ。
「とりあえず1ヶ月待ちます。もちろん、その間にもアプローチはさせてもらいますけど」
にこりと微笑むと、私の方へすっと身を寄せてくる。
「俺が嫌い……ではないですよね」
「う、うん。嫌いではないよ」
「なら抱きしめていいですか」
その潤みそうな瞳が、傷ついた子犬のようで胸が締め付けられる。
(こんなの反則だ。もう私は深瀬くんにとっくに捕らえられてる。でも……彼女になるなんて、まるっきり自信がない)
混乱で思考が乱れる。
相手は目の保養にさせてもらっている超イケメンで、失恋で多少心が弱っていて……私に助けを求めてる。
それを恋と言えるだろうか。
私には判断がつかない。
それが粋というものだ。
お互いに幸せになれる道が見えたら、そこへ素直に移行できるしなやかさがある人は美しいと思う。
でも、私がもし深瀬くんと恋人だったら、これまでの恋人のように潔く引けるだろうか。
アラフォーの女性に課せられた恋愛の美学を貫くのは、なかなか難しい。
***
その後はその場で話す言葉も思いつかなくなり、私たちはお酒を飲みきったタイミングで店を出た。
2月の夜はまだまだ寒く、息を吐くと空気が煙のように白くなって流れていく。
私はコートをぎゅっと前で合わせて軽く背をかがめた。
「まだ風、結構冷たいね」
笑いを誘うつもりで深瀬くんを見たけれど、彼は真っ直ぐな真剣な目で私を見ていた。
「深瀬…くん?」
「愛原さん。どうしたら俺を受け入れくれますか」
「え……」
(夢でも見てるのかな)
これまでの人生で、こんな薔薇色の展開は一度もなかった。
すぐには信じがたい。
「す、すぐには、決められないかな」
「時間が必要なら、待ちます。どれくらいの時間が必要ですか?」
「…っ、ええと…」
これが若いということなんだろうか。
想像以上にグイグイ来られて、戸惑うばかりだ。
「とりあえず1ヶ月待ちます。もちろん、その間にもアプローチはさせてもらいますけど」
にこりと微笑むと、私の方へすっと身を寄せてくる。
「俺が嫌い……ではないですよね」
「う、うん。嫌いではないよ」
「なら抱きしめていいですか」
その潤みそうな瞳が、傷ついた子犬のようで胸が締め付けられる。
(こんなの反則だ。もう私は深瀬くんにとっくに捕らえられてる。でも……彼女になるなんて、まるっきり自信がない)
混乱で思考が乱れる。
相手は目の保養にさせてもらっている超イケメンで、失恋で多少心が弱っていて……私に助けを求めてる。
それを恋と言えるだろうか。
私には判断がつかない。