君のキスが狂わせるから
「一つ聞いていい」
「何を?」
「元カレを好きになった部分と嫌だった部分を教えて欲しいんだけど」
明らかに嫉妬が入った声音だったから、私も意地悪で答える。
「…昔の恋については語らないんじゃなかった?」
「そうだけど。なんか、今は聞きたい気分なんだよ」
(気まぐれ? でもこれくらいは可愛い範囲かな)
私は元彼のことを思い出しつつ、特に言葉にすることがないような感じもした。
「えーと。好きだったとこは…優しいとこ。嫌だったとこは……あんまり心の中を話してくれなかったところかな」
「ふーん……」
少し考える仕草をして、海斗はにこりと笑った。
「じゃ、俺、結構早めに元カレを忘れさせてあげられるかも」
「えっ?」
「だって瑠璃さんには鬱陶しいくらい優しくするつもりだし。今みたいに、思ってることは全部口にするって今決めたから」
「今決めた……って、海斗らしくないのは嫌だよ?」
(演じたって、そんなのいつか疲れちゃうんだから)
海斗は大丈夫と言って一度ベッド降りると、すっかり裸になった。
「俺はこれでも、好きだと感じた人には結構従順なんだよ」
しなやかな裸体を惜しげもなく見せつけながら、私のブラウスのボタンを器用に外していく。
少しずつ暴かれる自分の肌を気にしつつ、私は海斗に尋ねた。
「それって、相手視点で自分を変えちゃうってこと?」
「違うよ、俺の中の軸はちゃんとあるんだ。ただ、自分を押し付けないで相手が笑顔になるように、軸を微調整するって感じかな」
「そんなこと…できるんだ」
(私だって簡単にはできないのに)
「できるよ。例えば、瑠璃さんが俺に会いたいって言ったとするでしょ。もしその時、大事な仕事があって遠くにいても、どんな手段を使っても必ず会いに行く。ただ、会った途端寝ちゃうことはあるかもしれないけど」
「ふふっ、そんな無茶なことさせないよ」
「それくらい本気ってことなんだけど」
軽く拗ねる顔が少し可愛くて、私は海斗の首を引き寄せた。