君のキスが狂わせるから
「彼女がいたって関係ないでしょ?心変わりすれば、そこまでの話なんだし」
「奪う……ってことですか?」
驚く私に、彼女は力強く頷いてみせる。
どうやら美桜先輩は私に言っているのではなく、自分の気持ちを言っているらしかった。
「今度、会社でポスターのコンペがあるのよ。それに応募して、ちょっとその子と接触してみたいなーと思ってるの」
「……真面目に言ってます?」
「当たり前よ。え、何、もしかして私なんか相手にされないとか思ってる?」
「あ、いえ…」
喧嘩腰にさせるつもりはなかったけれど、あまりいい気分じゃなかったから、ついそれを表情に出してしまった。
美桜先輩は確かに綺麗だし、まだまだ女性としての魅力もあると思う。
でも、唐突に深瀬くんを狙っていると公言されると、なんとなく……モヤっとしてしまったのだ。
(なんでモヤっとするんだろう)
「相手にされないとは言いませんけど。彼、まだ26ですよ?」
私の遠慮がちな抵抗にも、先輩は一切めげる様子はない。
「立派に成人男性じゃない。最近若い男性と一緒になる女性増えてるでしょ。フランス的な恋愛っていうか」
「まあ……そうですね」
(確かに、女性が年上でも昔ほどは驚かれない風潮にはなってきたとは思う。でも、深瀬くんはないよ)
そう思う理由をさらに探す。
単なるジェラシーだとか、そういう理由じゃないことを自分に納得させたかった。
(多分あの人、恋愛慣れしてる。だから、ちょっと口説かれたくらいで簡単に落ちる人じゃない)
私にサラリと“可愛い”という言葉を発したあの感じを思い返しても、初心な感じではなかった。
それどころか、恋愛百戦錬磨の達人的と言われても納得だ。
もう普通の恋愛では満足できないレベルかもしれない……というのは妄想が過ぎるだろうか。
「とりあえず先輩はコンペに参加するってことなんですね」
どう相槌を打っていいか分からず、私は話を仕事の方向へまとめた。
すると、もっと深瀬くん情報が欲しかったらしき先輩は、不満げにコーヒーを飲み干して外を見た。
「まあ、仕事が上手く行くに越したことはないよね。恋愛は二の次。ていうか、もう結婚とかは要らない。若い恋人が欲しい」
「そう……ですか」
まだ結婚もしたことのない私には、その心境はどうとも言えなかったけれど、結婚は素敵なことばかりじゃないのだというのをここでも感じさせられる。
(夢を見たいのに、もう夢を見させてもらえない。切ないなあ)
私の切なさなどお構いなしで、嬉しそうな表情に戻った先輩は得意げに言う。
「瑠璃ちゃんも新しい恋をした方がいいよ。どんな高価な化粧品より、恋愛をしている時が一番綺麗になれるんだから」
「ええ、そうですね」
そこは否定しない。
いい恋愛をしている人は例外なく綺麗になる。
笑顔が増えるからなのか、余裕が生まれるからなのか。それともそのどちらもなのか。
(ずっと私は圏外だって思ってきたからなあ……)
二度でも三度でも、花が開くなら恋はしたい。
深瀬くんのことは選択肢にもなかったけれど、少しくらい想ってもいいなら日々が楽しくなりそうだ。
(花開く前に落ちてしまうかもしれないけれど、蕾くらい……いいよね)
ひっそりそんなことを思ったら、不思議に胸の奥がふわりと温かくなった。
「奪う……ってことですか?」
驚く私に、彼女は力強く頷いてみせる。
どうやら美桜先輩は私に言っているのではなく、自分の気持ちを言っているらしかった。
「今度、会社でポスターのコンペがあるのよ。それに応募して、ちょっとその子と接触してみたいなーと思ってるの」
「……真面目に言ってます?」
「当たり前よ。え、何、もしかして私なんか相手にされないとか思ってる?」
「あ、いえ…」
喧嘩腰にさせるつもりはなかったけれど、あまりいい気分じゃなかったから、ついそれを表情に出してしまった。
美桜先輩は確かに綺麗だし、まだまだ女性としての魅力もあると思う。
でも、唐突に深瀬くんを狙っていると公言されると、なんとなく……モヤっとしてしまったのだ。
(なんでモヤっとするんだろう)
「相手にされないとは言いませんけど。彼、まだ26ですよ?」
私の遠慮がちな抵抗にも、先輩は一切めげる様子はない。
「立派に成人男性じゃない。最近若い男性と一緒になる女性増えてるでしょ。フランス的な恋愛っていうか」
「まあ……そうですね」
(確かに、女性が年上でも昔ほどは驚かれない風潮にはなってきたとは思う。でも、深瀬くんはないよ)
そう思う理由をさらに探す。
単なるジェラシーだとか、そういう理由じゃないことを自分に納得させたかった。
(多分あの人、恋愛慣れしてる。だから、ちょっと口説かれたくらいで簡単に落ちる人じゃない)
私にサラリと“可愛い”という言葉を発したあの感じを思い返しても、初心な感じではなかった。
それどころか、恋愛百戦錬磨の達人的と言われても納得だ。
もう普通の恋愛では満足できないレベルかもしれない……というのは妄想が過ぎるだろうか。
「とりあえず先輩はコンペに参加するってことなんですね」
どう相槌を打っていいか分からず、私は話を仕事の方向へまとめた。
すると、もっと深瀬くん情報が欲しかったらしき先輩は、不満げにコーヒーを飲み干して外を見た。
「まあ、仕事が上手く行くに越したことはないよね。恋愛は二の次。ていうか、もう結婚とかは要らない。若い恋人が欲しい」
「そう……ですか」
まだ結婚もしたことのない私には、その心境はどうとも言えなかったけれど、結婚は素敵なことばかりじゃないのだというのをここでも感じさせられる。
(夢を見たいのに、もう夢を見させてもらえない。切ないなあ)
私の切なさなどお構いなしで、嬉しそうな表情に戻った先輩は得意げに言う。
「瑠璃ちゃんも新しい恋をした方がいいよ。どんな高価な化粧品より、恋愛をしている時が一番綺麗になれるんだから」
「ええ、そうですね」
そこは否定しない。
いい恋愛をしている人は例外なく綺麗になる。
笑顔が増えるからなのか、余裕が生まれるからなのか。それともそのどちらもなのか。
(ずっと私は圏外だって思ってきたからなあ……)
二度でも三度でも、花が開くなら恋はしたい。
深瀬くんのことは選択肢にもなかったけれど、少しくらい想ってもいいなら日々が楽しくなりそうだ。
(花開く前に落ちてしまうかもしれないけれど、蕾くらい……いいよね)
ひっそりそんなことを思ったら、不思議に胸の奥がふわりと温かくなった。