私立秀麗華美学園
昼休み、テストから解放された俺たちは外で昼飯を食おうということになり、例の薔薇園の近くにある、水しぶきを上げる噴水のそばへ向かった。


「日差し、結構強いわね」

「初夏やなー。もうすぐ梅雨やけど」


言って咲は、うーんと背伸びをした。
梅雨の季節にさしかかろうとする今は、一番過ごしやすい季候なのかもしれない。
確かに日差しは強いが、水のそばにいるせいか、なんとなく風が冷たくて心地いい。


「試験も終わったし、依頼受付再開しましょ」

「そやなあ、もともとあたしら、暇潰しみたいなもんやし」

「俺は決して暇では……」

「ハッキングの本読んでるよりは、有意義な時間の使い方だと思うけどな」

「そらそーやわ!」


咲が大声で笑う。
そんな感じでがやがや(ほとんど3人の声)騒ぎながら、昼休みの間中喋っていた。
そろそろ予鈴も鳴るかと思われた頃、噴水の向こう側から、何人かの3年生が向かってくるのが見えた。

3年生だということは、制服のネクタイの色でわかる。
しかし、2年の校舎の中庭のここを、用もない3年生が通るはずはなかった。


「見たような顔だな」


雄吾が同じ方向を見て、眉間のしわを深めた。


「なんか、こっち向かって来てへん?」

「……あの人」


ゆうかは驚いたように言った。

一方俺は、雄吾の言葉に共感していた。
どこかで見た顔だ。それは良い印象を持ったものではない。何かとんでもなく相性の悪い……そう、例えばあのスカした……


「……笠井?」


雄吾が目を細めながら言った。
そう、遠目に見えるその集団の先頭に立つ男は、あいつにそっくりだった。
でもまさか、飛び級制度は採用されていないし、明らかに笠井よりも背が高い。


「笠井、雅樹」


言ったゆうかの表情は、機嫌が悪い時に似ていた。


「笠井の、年子のお兄さんよ」
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