私立秀麗華美学園
「兄貴い!?」

「そんなんいたん!?」


俺と咲は、その兄貴とやらを中心にこちらへ向かって来る集団をにらんでいるゆうかに向かって、大きく目を見開いた。
丁度その時、ゆうかのにらむその方向から声が聞こえた。


「いたぜ、あれじゃね?」

「あの子か?」


兄貴改め笠井雅樹は、俺たちの方を指して大声を上げている。

笠井の兄貴という人物にしては、随分とチャラチャラしているように見える。髪は完全な金髪だし、激しい改造制服。腰パンというかあれはもはや着替え途中だろ。

取り巻きらしき者どもは至って普通の格好だったが、無駄にガムを噛んでいる。
どーせキシリトールとかなんじゃねーの。ふっとこの前の熊之崎とかいうヤンキーもどきの顔が浮かび、不自然に笑いそうになった。


「なんなん、あの人ら。誰か探しに来たわけ?」

「はっ! もしかしてまたゆうかに何か……!?」


俺は急激に焦りを覚えた。


「まさか。関係ないわよ、たぶん。でも、何なのかしらね」


ゆうかは至って冷静で、むしろ楽しんでいるのかと思うほどだ。いや、楽しんでるのであろうことは明らかだけど。

集団は悠々と近づいてきた。
なんとなく身構える。俺が身構えたところで戦闘能力は一番小さいわけではあるが。

雄吾も咲もゆうかも、ばかでかい噴水周りにいる2年の生徒たちも、全員が全員、ただならぬ集団の襲来を、息を潜めて見守っている。

ついに笠井雅樹が、俺たち4人の前で立ち止まった。


「初めましてー」


当人は、にこたらにこたら笑顔を浮かべて、お目当ての人下の前で、フレンドリーに片手を差し出した。

目の前に指輪だらけの左手を突き出された咲は、その場の誰よりも、呆然としていた。
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