私立秀麗華美学園
C組へ行くと、同じく学園祭の準備にてんやわんやだった。


「あれ? ゆうか? どないしたん?」


俺たちに気がついた咲が言った。
その言葉の調子はいつもと大差なかったが、近くに雄吾の姿はない。


「ちょっと芳本先生に用事なんだけど……ご不在みたいね」


ゆうかはぼそぼそと小さな声で返事をした。
今やきもち妬いてるもんねー。
笠井くんに妬いてるんだもんねー。


「先生なあ、たぶん執行部室かな」

「そう……って、咲、その服は」

「これ? メイド喫茶って言うたやんー!」


窓から顔だけ出していた咲が戸口へ来ると、その衣裳が晒された。

濃紺のワンピースに、フリルだらけのエプロン。大きく膨らんだ袖口には黒いりぼん。足元は黒タイツに真っ白なバレーシューズだ。

みごっとに、忠実に、秋葉原感に溢れた、今にも猫撫で声が発されそうな、もうなんつーか、ほんとにこれは三次元の世界なのかというか。


「想像以上ねー。しかも、すっごく似合ってる」

「すごいやろ? 発案者が詳しかってん。まあ、予想はしてたけど」


そろーっと視線を辺りに配ると、教室の奥に、咲と同じ衣裳+ヘッドドレスまで装着した三松と、それを崇拝するかのように膝立ちになった天才堂本くんがいた。

えー、あんまり関わらない方がいいと判断したため、絡むことは避けておきましょう。
ついでに雄吾の姿も探したが、教室にはいないようだった。


ゆうかと咲は、エプロンをつつきながらきゃあきゃあ言っている。
俺はゆうかと咲の衣裳を見比べた。あんまり行き過ぎた想像を膨らませると、好感度の低下が予想されるので、自重することにしよう。

そろそろ行こうとゆうかに声をかけようかと思った、その時だった。


「ここかあ? 2年C組は」


背後からドスのきいた、鳥肌の立つような声が聞こえた。
俺の後ろに立つ人物を見て、咲とゆうかが顔を引きつらせる。

振り返るとそこにいたのは、これこそ諸悪の根源、笠井雅樹だった。
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