私立秀麗華美学園
「そうそう、お前だよ。つーかどっから……」

「知らないのか。教卓という名がついているのだが」


驚いたように雄吾は言った。いや、全然驚くとこじゃねえし。名前なんか聞いてねえし。


「んなとこで何して……」

「特に何も。強いて言えば引きこもりというやつだな」


雄吾は至って真面目なのだが、その飄々とした態度は余計に笠井を苛立たせた。


「なんだお前、ふざけてんのか? 俺はなあ、宣戦布告しに来たんだよ」

「はよ帰れ言うんじゃぼけえ!」


メイドエプロンをむしり取り、咲は笠井に向かって歯をむき出した。
犬というよりさながら狼である。
しかし腕をつかまれ、笠井と顔を見合わせる体勢になってしまった。


「威勢のいい女だな。こんなひょろいきざな野郎とは到底似合わねえ」


その言葉を聞いて、雄吾の顔色が変わった。


「そのへんにしとけよ。まだ、やられ足りないのか」


雄吾は教卓にのっていた長いプラスチックの定規をつかんだ。
これで俺の出番はなくなったわけだ。


「ふん、そう興奮すんなよ」

「離せえっ!」


咲は笠井から逃れようともがくが、よほど力が強いと見え、笠井の手が緩む様子はない。


「この前とは様子が大分違うじゃねえか」

「もう、雄吾には頼れへんからっ……」


咲は消え入るようにそう言った。


「はっ! ついに破局かよ。やっぱこんなかたぶつとは合わねえんだっつーの。お前もそんなもん構えて、女ひとりとられたぐらいでがたがたぬかしてんじゃねーよ」


ぶつり、と、雄吾の理性の切れる音が、聞こえた気がした。
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