私立秀麗華美学園
次の瞬間、笠井雅樹の脳天には、プラスチックの長い棒が、したたかに打ち込まれていた。


「貴様、今、何を言った」


その声の鋭さと、張り巡らされた神経の一触即発状態に、場は凍り付いた。
笠井は痛さよりも驚きの方が大きいらしく、咲の手も離し、口をぽかんと開いている。

俯いた雄吾が、再び静かに声を発した。


「今しがた貴様の口から出た戯言が、如何なる意味を孕んでいたのかと聞いている」


容易には信じられなかったが、これが雄吾の台詞でないはずはない。
雄吾以外のどこの高校生がこの場面で戯言などという単語を発するというのか。

上げられた雄吾の顔は、それはそれは恐ろしく、この世のものとは思えないほどだった。


「誰のことを、女一人と言った」


雄吾は定規を投げ捨て、いつもゆうかがやるように、相手の襟元に手を伸ばして物凄い力で引きつけた。


「咲のことを、言ったんだったな? 確か女ひとりとられたぐらいで、と、のたまっていたな? それは咲が俺の姫だと、心得た上での戯言か。 貴様にとっては女ひとりに違いないかもしれない。が、俺にとっての咲が、ただの女であるとでも思ったか。笑止の至りだ」


そう言って雄吾は、絶対零度の微笑みを見せた。口元にはうっすらと微笑みが浮かんでいるのに、目は笑っていない。咲やゆうかや俺をはじめ、場にいる全員が豹変した雄吾に恐れおののいていた。あんな顔、幼児が見たら泣き喚くことうけあいだ。


「わ、悪かった……」


そして笠井も同じだったらしく、微笑みを見ると即座にその言葉を述べた。
雄吾は極限まで笠井に顔を近づけ、視線を尖らせる。
数秒後、すごみをきかせた声で雄吾は言った。


「消えろ」


雄吾が手を緩める。途端笠井の体は崩れ落ち、ゴホンと大きな咳をひとつした。


「……覚えてろよ」


どこぞのアニメの悪役のような台詞を残すと、笠井雅樹は疾風の如く走り去ったのだった。

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