私立秀麗華美学園
「ゆ、う……ご……」


笠井雅樹が走り去ったのを見届けたあと、果敢にも咲は雄吾の顔を覗き込んで、そう呟いた。
その途端、雄吾がはっとして目を見開く。ぎこちない動きで咲の方を向き、ぼんやりと咲の目を見つめ返した。


「俺……今……?」


ゆっくりとまばたきをする。
静まり返っていたC組の教室に、少しずつざわめきが広がっていた。


「あ、雄吾、AB型やから……」


いやいやそういう問題じゃないから。
咲もしどろもどろになって、何かしらをフォローしようと試みているが、なにがなんだかわからない。


「単に、本音が抑えられなかったってだけじゃないの?」


ゆうかには珍しく、控え目に意見を述べた。
雄吾は一度ゆうかを見たあと、床に落ちた定規に視線をやった。


「……俺、今……笠井、定規……」


ご乱心だ。そのまま雄吾は固まって、立ちつくしてしまった。


「なあ、雄吾、さっき……」


少し恥ずかしそうに、咲が雄吾の腕に触れた。
その途端。


「え、あ、じゃ、そういうことで……」


どういうことだー!?
若干赤らんだ顔の雄吾は、瞬時に教室を飛び出してしまった。


「ちょ、ちょお待ってよ!」


瞬間咲の姿も消えた。神速で雄吾のあとを追う。
2人が去ったあとには、唖然とするC組の生徒たちが残され……


「待ちなさいよお!」


かと思いきや、忘れた頃に再登場。水沢が咲に続いて教室を飛び出した。
足の速いやつが多いクラスだな。


「またあの女! 行くよ和人!」


そして俺は、こんな時の足の速さは尋常じゃないお嬢様に連れ出された。
今度こそ、あとには唖然とするC組の生徒たちだけが、残された。
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