私立秀麗華美学園
引きずられるように教室を出た俺と、その引っ張り源のゆうかは、思ったほど足の速くないというより正確に言えば鈍足の水沢のおかげで、2人に追いつくことができた。


「待ってってば!」


咲の大声が響き渡る。
プライバシーもへったくれもあったものじゃない。
ようやく水沢が2人のもとへ辿り着き、俺たちは反射的に物陰に隠れた。


「お待ちくださいませ!」


え、誰。
いや、状況からして水沢でないはずはないのだが。
予想外の言葉使いと息の荒さに俺とゆうかは顔を見合わせた。


「ちょっと引込んどいてもらえます!?」


咲はそんな水沢にも気付かないのか鬼のような形相で、自分と雄吾を邪魔する存在を睨みつけた。


「いやですわ! 雄吾さまが下品な毒蜘蛛の餌食になるのを見ているなんて」


水沢は女優さながらに涙を振りまきつつ台詞を言った。
俺とゆうかは吹き出すのを必死でこらえる。確かに今の咲は、毒でもなんでも吐き出しかねない。

一方、当然ながら咲はぶち切れた。


「なんなんほんまに! お子様とか言うたり、下品なんはそっちやろ! 他人の騎士にまとわりついとって!」

「まあ、まとわりつくだなんて」


水沢はレースのハンカチを噛みしめた。
こいつのやることも冗談なのか本気なのか単に頭がおかしいのかよくわからない。


「私は雄吾さまを見守ってさしあげて……」

「黙れメス豚ストーカー!」


あんな言葉使いで、なぜ下品と言われて否定できるのだろうか。


「まあ、雄吾さまの姫君に相応しくないお言葉!」

「あんたにお子様とか昆虫呼ばわりされる筋合いないっちゅーねん!」


それを言うなら水沢だって豚呼ばわりされる筋合いはないと思う。

そんなこんなで、咲と水沢の醜い言い争いは、益々ヒートアップしていった。
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