私立秀麗華美学園
「ほんまにもおっ……!」


かっとなった咲が平手を振り上げた。
物凄い剣幕にさすがの水沢も目をつぶる。

……誰もが予想した、乾いた音が響くことはなかった。


「……どうして和人が目つぶってんのよ」


知らず知らずのうちに両手で目を覆っていた俺は、ゆうかに呆れ顔を向けられた。


「痛そうだなーと、思って」

「あっそ」


ゆうかの視線に耐え切れず、咲の方を見ると、手首を雄吾につかまれていた。


「なんで止めるん!?」

「痛そうだなーと、思って」


ななななんと、同じ考えの人が!


「大した行動の違いね」

「……わかりきったことを」


自分で言うのも恥ずかしかった。


「咲が、人を傷つけるところなんて見たくない。それに」


そこで言葉をきり、雄吾は俺たちが隠れている方に視線を向けた。


「その前に、出て来いよ。そこに、いるんだろう」


ほらやっぱりな。
俺とゆうかは、あっさりと3人の前に姿を現した。


「この前の話だが、依頼相手というのは俺だな?」


近づいていく俺に、雄吾は耳打ちをした。
よくも平然と言えるな。俺だったら、自意識過剰っぽくて絶対言えない。まあ、雄吾だからこそではあるのだろうが。


「そーですよ」

「そうか。自惚れでなくてよかった」


雄吾はにっと笑って見せ、こう付け足した。


「残酷な言葉で断ってやろうか」


……どこかで聞いたような、台詞だな。
例えば、俺の隣にいる姫の口からとか。
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