私立秀麗華美学園
「まあ、ありがとうございます!」


雄吾に助けられた形となった水沢は、感極った様子で雄吾にお礼を述べた。
咲は納得のいかない顔をして、そんな水沢を睨んでいた。


「いや別に、お前を助けようと思ったわけではない」


雄吾はそう言ったが、これは別に残酷な言葉として言ったわけではないだろう。


「……あのさ、雄吾。水沢が号泣したりしても、困るし……」

「わかっている。残酷な言葉、は、冗談だ」


まさか雄吾から「冗談」などという言葉が発されるとは思っていなかった。本音を吐き出してしまったことで、何かが吹っ切れたのか、少し思考回路が故障したのだろうか。


「それはそうとして、花鳥風月に依頼をしてきたのは、お前だな?」

「はい。ですのに、そこの毒蜘蛛が邪魔を……」

「だからあんたに昆虫呼ばわりされるいわれは――」

「うるさいわね! 私が雄吾様とお話しをしているというのに――」

「もういいだろ」


雄吾の言葉にも耳を貸さず、二人はまた激しく言い争いを始めるかと思われたが。


「雄吾はどっちの味方なん!?」


予想外にも、咲は水沢の姿を視界の外へ追いやり、歯を食い縛って、雄吾をきつく睨みつけた。
雄吾はなんとも不満そうにしかめっ面をしていた。


「味方もなにも、咲は間違っている」


咲の顔が蒼白になり、水沢の顔に光が差した。
俺の隣で、ゆうかは雄吾につかみかかる寸前だ。


「蜘蛛は、昆虫ではない。足が八本だ」

「はあ……?」


全員が全員、がくりと肩を落とした。
ただ一人雄吾はわけのわからない様子で、ため息をつく咲と、苦笑いの俺とゆうかと、状況についてこられていない水沢を、かわるがわる眺めていた。
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