私立秀麗華美学園
「雄吾……」


怒りも忘れ、咲は苦笑いの表情で雄吾を見る。
それに返す雄吾の顔には、不思議そうな表情が浮かぶばかりだ。

本人は至って真面目なのだが、こういうのを、KYだとかいうんだろうか。今になって、雄吾のKY疑惑が浮上してしまうとは。


「あたしは、そんなことが聞きたいわけじゃないねんけど」

「俺だってそんなことを言いたくはなかった」


何のこっちゃ。


「言いたくないことを言わせるような無知なお子様は!」


勢いを取り戻した様子の水沢は、憤然と言い放った。


「雄吾様の姫にはふさわしくないのよ!」

「あーもう! うるさいな!」

「しとやかさの欠片もないじゃないの!」

「だからなんであんたにそんなん言われなあかんの!」

「雄吾様だってそう思ってるわよ! あなたがどれだけ姫らしくないことか!」


水沢のその言葉に、咲はぐっと言葉を詰まらせた。

もともと雄吾の気持ちに疑問を抱いて始まった、この喧嘩騒ぎだった。咲は、言い返す言葉を探すように唇を噛みしめた。

いつもならすかさず否定しているはずの咲が、言葉を詰まらせたことが、俺たちは悲しかった。


「そ……っんなことないもん!」

「どうしてそう言えるのよ!?」

「ないもん……」


不安そうに俯いて、視線を落とす。

後ろに立った雄吾は言葉を発するのをためらっているようだった。俺は、はっとした。雄吾が迷っている。
今こそ、あの言葉の出番だ。
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