私立秀麗華美学園
「雄吾」


声が裏返りそうになりながら(なぜこの状況で俺が緊張しているのか自分でもわかりかねるが)一斉に向けられた4つの視線に、言葉を返す。


「自己中になれ!」


……危惧していた通り、雄吾以外の3人は、何とも表現のし難い表情をした。
いや、別に気がふれたわけでは、なくてですね……。


「何よそれ」


隣でゆうかが怪訝な顔でささやく。


「いや、何ていうか、あの、大丈夫大丈夫」

「和人」


やっと雄吾が返答をしてくれた。できれば俺がおかしな眼で見られる前にして欲しかったんですが、うん。
今度は雄吾に視線が集まる。雄吾は俺に向かって、言葉の代わりに目でうなずいた。
そして、その瞳に真剣な色が差す。


「咲は」


雄吾は左手で咲の右腕をつかんだ。


「昔から奔放でおてんばで、負けん気が強くて――確かに、しとやかな女の子とは言い難い性格なのだろう。でも、そんなことは関係ない」


しんとしずまった空気の中、左腕もつかんで、雄吾は咲を自分の方へ向かせた。
戸惑う咲の瞳に視線を落とし、続ける。


「そうでなければ、咲じゃない。元気で明るくて、周りを笑顔にしてくれる。優しさも備えた、立派な姫だ。俺が最近おかしな態度をとっていたのは、お前を騎士として守りきれる自信がなかったからだった」

「雄吾……」

「離れることも考えたが、他の男が咲の騎士になるなんてことに、耐えられるはずがない。自分だって他の姫を受け入れられるわけがない。咲を失うと思ったら、怖かった。咲は俺の姫だ。そうでいてもらわなければ、俺が困る」


雄吾を見上げる咲の瞳は、みるみる涙で溢れ返った。


「ありがと……」


震える咲の体を、雄吾は優しく抱きしめた。小さい姿はすっぽりと雄吾の腕の中におさまる。
雄吾は咲の頭に手をおいて、見たこともないぐらい優しく微笑んだ。
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