私立秀麗華美学園
「……さて、皆様もひとしきり感謝を述べ終わった頃かと思いますので、是非その野蛮な行為を中断してください」


あなたの真似をしたつもりだったのですが、野蛮な行為とは心外です。


「ここでひとつ、昔の話をしようかと思います。これはある少女についてのことで、この話での教訓は、必ずや皆様の人生に潤いを与えてくれることでしょう」


俺たちの向かいの校舎にいる生徒たちは、どんな素晴らしい話が始まるのかと、期待して身を乗り出した。

あれは1年の校舎だ。
そう、1年生は、この話がいかなるものか、全く知らない。しかし、俺たち2年生はもちろん3年生も、この話は既に飽きるほど聞かされているのだ。
もちろん白上先生から。


先生はもったいぶって口を開き、その話の有名すぎる冒頭を口にした。


「むかし昔、あるところに、赤い頭巾を被った女の子がいました……」


以下、学園長のセリフを書き連ねることは、ページの無駄な消費に他ならないと俺が判断したため、省略させてもらうことにする。


まあ要するに、学園長はこんな感じの人間なのである。

学園長の挨拶などというと、いかにも格式ばった面白みのないものを想像するかもしれないが、突っ込みがいのあるこの挨拶は、学園中の誰もが愛している。


ただ、あの話の教訓というのは一体どこにあるのか、いつか教えて頂きたいものだ。

寄り道は控えよということだろうか。親しい人の耳の大きさは覚えておけということだろうか。むしろ、偶然木こりが通りかかるまで肉食獣の腹の中で生き延びる方法が知りたい。いや、やっぱりそんなに知りたいわけでもない。


やがて学園長の挨拶は終了し、続いて実行委員長の、普通すぎる挨拶、そして諸注意。
それが終わると、プロのオーケストラ団による演奏の荘厳な雰囲気の中、開会宣言。

そして、色とりどりの、何千という数の風船がばらまかれると共に、入場門が開いて、いよいよ学園祭が始まった。




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