私立秀麗華美学園
「参加、するの?」

「ええ、するわよ。私、甘いものには目がないの。シフト終わってすっ飛んできたわ」

「それで、その格好なんすか……」


C組である水沢は、例の衣装を着たままだった。
しかも背が高い分咲が着ていた時よりもスカート丈が短い。超短い。すらりと伸びた足に、ガーターベルトがのぞく。

しかも水沢は普段から赤ふちのめがねを愛用している。めがねメイド服ガーターベルト。確信犯だな、こいつ。教室中の男の目が釘付けだ。


「失恋のヤケ食いよ。勝てる気しかしないわ」


自虐的な言葉と共に水沢は記名して、12人の挑戦者が集まった。

制限時間は8分。5位以内に入れば、順位に対応した大きさの袋が配られ、賞品がもらえる。
馬渕が叫んでいた通り、アクセサリーの袋詰めだ。提供はクラスのお嬢様方。「いらなくなったアクセサリー」を集めたら、袋詰めに十分な量になったのである。

水沢が一番端の席、熊之崎の隣に座った。そして司会者がルールを説明し始めようとした、その時。


「むっ、そ、それは……!」


熊之崎が自分の隣に座った水沢を見て、いや、水沢のめがねを見て、わななき立ち上がった。
すっかり忘れていた。やつは赤ふちめがねを見ると極端にテンションがあがるのだ。しかも、この衣装たちとの共演だ。


「はあ? 何よあんた。指さすの、やめなさいってーの」

「そのめがねをかけて粗雑な喋り方をするのはやめてくれ。もっとしとやかな大阪弁で喋るんだ!」


熊之崎は武士口調も忘れ、かなり難しいことを水沢に注文した。
しとやかな大阪弁ってのは、要するに、京都弁のことだろうか。堪忍しておくれやす。


「何なのこの人! ちょっと雄吾様のお付きのあんた! どうしてこんな格好の人間が、ここにいるのよ!」

「お付き……俺? え、いや、どうしてと言われても……」

「友人のクラスを訪ねて何が悪い!」

「友人!? 何のことか知らないけれど、いいわ! 私、何があってもあんたに負けないわ! 雄吾様に誓います!」

「おう上等じゃい! 覚えとけよ!」


2人は勢いよく、同時に着席した。お互いを睨み、漫画さながらにバチバチと火花を飛ばす。ちょっとおもしろいことになりそうだ。
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