私立秀麗華美学園
「ぅぉぉぉおおおおおお!」


熊之崎の雄叫びに、挑戦者を含めた教室中の人間が目を向ける。

熊之崎の手が、光速で動いていた。
どうやらキャラメルを細長い棒状に伸ばしているらしい。そして大体30cmぐらいに伸ばし終えると、熊之崎はそれを、またも光速でぶちぶちと千切り始めた。一欠けら1cmもなさそうだ。


「やるわね!」


水沢はにやりと笑って熊之崎に言った。熊之崎もにやりと返す。
そして千切ったその小さなキャラメルを、ぽいぽいぽいと口へ運ぶ。飲み込む。ありゃ、丸飲みだな。


「秘儀、金太郎飴ね!」


なんだその勝手すぎる命名の仕方。


「そちは力任せじゃな!」


誰もがわかっていることをなぜ今更。

水沢は再びにやりと笑った。そしておもむろに赤ふちメガネを捨て去る。
本気モードというわけか。今まで本気じゃなかったのか。恐ろしき人材だ。


「ラスト60秒です!」


計測係の声にも力が入る。気勢が半端じゃない2人に視線が集中だ。
しかし、中坊やOGも動きを止めてはいない。弓浜の様子は省略。


「ラスト30秒!」


水沢が体裁を気にしなくなり始めた。これは公然の場でぎりぎりの表情だ。熊之崎の手が一層早くなり、それにつれ口が狭まっておちょぼ口になってゆく。


「ラスト20!」


廊下の窓から送られる彼女の声援に応えるように、中坊のモチベーションも上がっていく。OG2人もまだ諦めない。


「10!」


もはやこれはただの学園祭の出し物ではない。白熱した、本気の者同士がぶつかり合う、戦だ。
やっべなんかこみ上げてくるものがある気がする。


「終了です!」


ホイッスル(プラチナコーティング)の音と共に、熾烈を極めた争いは終了した。

場には自然と、勇敢なる挑戦者たちに向け、拍手が湧き上がった。
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