私立秀麗華美学園
俺たちは窮屈な制服を脱ぎ去ると、私服に着替え、足早にC組へ向かった。

教室の前で一旦立ち止まる。我がクラスと同じく、数人の生徒が呼び込みをやっていた。


「コンセプトはメイド&執事喫茶。売り物はドリンク、軽食。最上級のメイドや執事のおもてなしで、あなたのお食事を彩ります……」


そこまで読んだところで、ゆうかはぶはっと吹き出した。雄吾が嫌がるのも道理だ。


「和人、食券持ってるよね?」

「ゆうかに買って来いって命令されたからな」

「あらやだ人聞きの悪い」


とか言いながらゆうかはおほほほと笑って手のひらを出している。俺は大人しくその手のひらに食券5枚を乗せた。


「1枚いくらだっけ」

「500円」

「わたし、いくら渡したっけ」

「2000円」


ゆうかは一瞬だけ逡巡したような様子を見せた。が。


「じゃあ入ろっか」


いや、別に500円ぐらいなら大丈夫です。いくら俺の小遣いがどちらかというと普通だからって。変に気を遣われていたら泣いているところだった。

俺たちは、戸口にかかった洋風のれん(隅に埋め込まれた輝くあれはおそらくただのガラス細工ではあるまい)をくぐり、教室へ踏み込んだ。


「いらっしゃいませ!」


目の前に広がったのは、いきなり壮絶な光景だった。

テーブルにつくまでのそう長くはない道のりに、ずらりとメイド&執事が並んでいる。
右側にメイド、左側に執事だった。メイドは先ほどの水沢と同じ格好で、執事はスーツ姿だ。

手には白手袋。胸元には色とりどりのハンカチがのぞいている。
基調とする格好は同じだが、それぞれでアレンジを加えているので、執事というよりはホストみたいなやつもちらほらいるようだ。


「2名様でございますね」


執事頭とおぼしき長身の男に、馬鹿丁寧な物腰で席へと案内された。

あんまりにも丁寧すぎると、なんだか馬鹿にされているような気がする。なんて思ってしまう俺は、もしかするとひねくれているのだろうか。
< 147 / 603 >

この作品をシェア

pagetop