私立秀麗華美学園
放課後、ゆうかがC組に行った後、俺はというとやり忘れていたプリントをやっていた。つっても、ゆうかのを写してるだけなんだけどな。
だってゆうかにやらされてんだから。

整った字に惚れ惚れしながら作業をちんたら進めていると、突如教室のドアが開かれた。


「よう、また課題か?」


件の憎い恋敵。笠井だった。
教室には俺しかいなかったので、体が椅子から浮くほどびびってしまった。


「写してるだけだけど」


精一杯そっけなく答えた俺を、笠井は鼻で笑った。「鼻で笑う」の見本として学園中に放送してやりたいほど腹立たしい仕草だ。


「ま、どっちでもいいけど。つーか聞いたんだけど、月城、ゆうかの騎士なんだって?」

「…………だったら何なんだよ」

「かりかりすんなって。聞きてーことあんだよ」


無視してプリントを続ける、フリをした。実際は芯の出ていないシャーペンをせかせかと動かしているだけだった。ついでに、キエローと、文字の形にペンを動かす。
なんとも子供じみている。


「ゆうかって、好きなやついんのか?」


……は?

俺は放心のあまり焦りを取り繕うのも忘れ、動きをぴたりと止めてしまった。

機械的に笠井の顔を見た俺は、その時どのくらい間抜けな表情をしていたのだろう。
あとから考えるだけでも屈辱的だ。
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