私立秀麗華美学園
「……ゆうか」


左肩越しに振り返ろうとしたゆうかを、右手首をつかんでとめる。
ゆうかは理解したように、もとの方向を向いた。


「よかった」


言葉を続けようとするが、また一段と視界がくもってきたので、手の甲で拭う。ゆうかは黙って待ってくれていた。


「好きに、なって」

「……誰を?」


意地悪にゆうかはそう尋ねる。俺は素直に返事をした。


「花嶺ゆうか」


ゆうかが微笑んだのが、気配でわかった。
途端にまた涙が溢れてきた。静かに流れる涙を、今度はほうっておく。頬を生ぬるいものが伝って、2粒ぐらいは地面に落ちた。


しばらくして、手首をつかんだ俺の手に、ゆうかがそっと触れたので、俺は手を離した。ゆっくりと振り向いたゆうかは優しく、しかし小悪魔のように微笑んでいた。俺は俯いて鼻をすすった。


「……ねえねえ」

「え?」


顔を上げると、ゆうかは恭しく左手を差し出してきた。手の甲を見せて。右手は俺の服の裾をそっとつかんでいた。
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