私立秀麗華美学園
「これ……」

「一回やってみたかったんだ」


まさかこの状況って。


「もしかして」

「そう。口づけ」

「なっ……!」


俺は思わずのけぞった。あまりにも驚いてしまい声が出ず、口をぱくぱくさせていた。


「何、嫌なの?」

「いや、違うけど……」


だって今までは、髪に触れただけでも口を尖らせていたのに。
それが、手の甲とはいえ……口づけ?


「じゃ、早く。忠誠を誓う騎士とか、よくやってるじゃない」


ゆうかがまゆをひそめたので、俺は恐る恐る右手を出した。
そうっと、ほんとにそうっとゆうかの左手の下に滑り込ませ、てのひらに指で触れる。
一度ゆうかの瞳を見て、光栄に思いながら、白い手に軽く口づけた。


「……愛され記念日」


ゆうかの呟きが聞こえた。
そっと上げた視線がぶつかる。
あまりにも照れくさかったので、俺はすぐさま視線を泳がせた。

その時、だった。


「ちょっとちょっとちょっとー!」


全く聞き慣れない声と共に、やはり全く見慣れない人間が、俺たちの前に現れた。




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