私立秀麗華美学園
「あのなあ! 違うだろ、そこは!」


現れた男は、金色の髪をしていた。透けるような、というのとは違ってどぎつくいかつい金髪だ。
背格好は雄吾と変わらない。なぜだか不満気な色をたたえた顔は、やっぱりいかつい。眉毛ほとんどないし、なんか、口にピアスついてるし。

そしてそのみてくれとは不釣り合いな、農家の作業着のような服に身を包んでいた。足元は黒い長靴。手には大きなシャベルと肥料の袋……。

誰だ、こいつ。


「その状況で、目え逸らすか普通ー! 顔上げて、視線がぶつかった途端、抱き締めるのが男だろ!? ああ!?」


何を言っているんだろうかこいつは。
いったんゆうかと目を合わせると、俺と同じくあっけにとられた顔をしていた。より正確に言えば、はい? みたいな顔。って全然正確じゃなかった。でもたぶん、はい? みたいな顔の方が想像しやすいんじゃないだろうか。とにかく俺とゆうかは揃って、はい? みたいな顔をしていた。


「おいおい2人揃って、はい? みたいな顔してんじゃねーよ! あーあ、これだから近頃の男は! 情けねえなあ」


表現方法について、目の前のすこぶるうさんくさい男と完全なる合致を果たしてしまった俺は、不快感もあらわに、思い切って尋ねた。


「あの、どちらさんですか?」

「ああ!? ああ! ああ…………ああ!」


男がすっとんきょうな叫び声を上げたので、ゆうかと俺はたじろぎ眉間にしわを寄せた。


「やっべ、つい! 駄目だこりゃ職業病だな。あー、やっぱ覗き見なんてすんじゃなかった! いいやもう、こうなったら仲良くなろーぜ!」


持っていた肥料の袋をどさりと地面に落とし、男は片手を差し出してきた。
え、いや、あの、そんな爽やかな笑顔で仲良くなろーぜとか言われても、対応しきれてないんでこっち。


「あの、今言ったばっかなんですけど、どちらさんですか?」

「ああ、俺? 何を隠そう俺は、薔薇造園の主なのだ!」
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