私立秀麗華美学園
「……いや、読み方知られてなかったって、俺の方がびっくりなんですけど」


すこぶるうさんくさい男あらため恐るべき真実をもたらした男は、花壇にどさどさと肥料をまきつつ、ゆうかと俺の驚きように若干ひきながら答えた。

俺たちはあまりの驚きに気を許してしまい、なぜだか男の仕事ぶりを眺めながらフレンドリーに会話していた。


「言われてみれば、確かにな」

「学園で通じてたから、読み方を知らないことすら忘れていたものね」


男は、これだからいいとこのおぼっちゃんおじょうちゃんは、みたいな顔をした。と思ったら、そのまま同じことを口にした。一体何なのだろうこの以心伝心っぷりは。


「そもそも、なんで知ってるんですか。学園の生徒の大半は知らないと思うんですけど」

「いや、なんで知らないんですかって話だろうよ」

「っていうかその前に、原点回帰になるんですけど、あなたは誰ですか」


男は背の高いシャベルをぐさりと土に突き刺すと、そこに片腕を預けるようにしてナイスポーズをとった。


「何を隠そう俺は、薔薇造園のぬ……」

「それはさっき聞きました」


男はしらけた顔で俺たちを見ると、シャベルを土から抜き、肩にかついでため息交じりに言った。


「21歳独身。5月生まれの双子座。O型。大ざっぱでおせっかい。女好き。年上好み。趣味は園芸。特技は一気飲み。マイブームは花言葉の暗記。……名前は、白上零だ!」


すこぶるうさんくさい男あらため恐るべき真実をもたらした男あらため白上零は、腰に両手をあてて、すがすがしいほどの高笑いをした。
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