私立秀麗華美学園
やはり突飛な顔をしていたらしく、笠井は口の端を歪めて言った。


「その顔は知ってんな。教えろよ」


……そもそも、騎士に向かってそんな質問をすること自体とんでもなく失礼なことだとかは、思わないんだろうか。思わないんだろうな。相手俺だからな。


「知らねえよ。もともとこんな顔でしたけど」

「へえ。気づかなかった」

「PAKに気づくのが遅せえんだよ」

「聞いてはいたが、信じられなかったもので」


聞いてはいたがって、お前、いやお前、はあ?


「いねぇのか……」


笠井は顎に手をあて呟いた。
俺は意を決し、その質問を口にすることにしようとしていたつもりのはずだった。


「お前、ゆうかのこと……」


することにしようとしていたつもりのはずだったが、根性が少し足りなかった。不安に押し潰されてしまいそうで、言葉が続かない。

俺の心情と言葉の続きを察したのか、笠井は半笑いで口を開いた。


「好きだとしても、お前に口出しさせねーよ」


さらっと出てきた台詞が、頭を強打する。
鼓動の速さは半端じゃないが、ご存知の通り見栄っ張りの俺は平静を装う。


「はっ、そんなもん……」

「それじゃ、愛する姫によろしく」


俺に反撃の糸口すら与えずに、笠井は勝ち誇った笑みでそう言って教室を出て行った。
さっさと失せろ、と威勢のいい言葉を吐く気概すらも砕かれる。



……やべえ。これは、つまり、両思い発覚。

騎士から姫への片思い。
救世主と姫の両思い。

勝ち目ゼロ。勝てる要素が何ひとつ見つかりそうにない。



一人残された教室に、笠井の残した言葉が渦巻きこだまする。

俺の真っ青であろう顔を、傾く夕陽が窓を通して赤々と染め上げていた。









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