私立秀麗華美学園
フロランタンって何でできてるんだろうなーと考えながら、自分の部屋への廊下をぼてぼてと歩いていると、突如、背中を大きな衝撃が襲った。ずどん、と大きなものにぶつかられたような衝撃。


「……何してんだよ」

「よお」


そこには暗ーいオーラをまとった、真二がいた。
体勢からしてさっきの衝撃は、真二による体当たりまがいのものだったらしい。


「朝っぱらからどうしたんだよ」

「和人……折り入って、相談がある」


真二の声色の淀み具合からして、正直言えばあまり関わりたくはなかったが、そういうわけにもいかないのでとりあえず、黙って部屋のドアを開けた。


「今、雄吾もいないし、とりあえず入れよ」

「恩に着ます」


恩に着る……。雄吾からしか聞いたことのない言葉ではあるが、突っ込まないでおく。
真二はよたよたと部屋の中へ入ると、どさりと無遠慮にベッドの上へ倒れ込んだ。


「で、なんなんだよ、相談って」


俺は後ろ手にドアを閉め、ベッドのそばに置かれたチェストに寄りかかった。
真二はかけぶとんに顔をうずめたまま、微動だにしない。おーい、窒息すんぞ。つーかそっちは雄吾のベッドだから、シーツがよれよれになってたら俺が怒られるんですけど。


「お前、キューピッドなんだよな」

「……改めて言われると恥ずかしいな、それ」

「花嶺さんとはうまくいってんのか?」


顔はふとんにうもれ、上半身だけベッドの上。床に膝立ちで両腕をだらりと垂れさがらせたその状態の人間に、そんなことを聞かれるとは思いもよらなかった。

うまくいってんのかって……い、いってるよなあ……? ていうか、いってなくはないよなあ。最近あんまり怒鳴られないし、よく笑う気がするし、今日なんかあんなに眠そうで……ってそれは関係ないか。いや、隙を見せてくれてるって点では関係あんのかな……


「まあ、どっちでもいいかそんなこと……」


どっちでもいいんかい。


「だから、何が言いたいんだよ」

「……み、未樹がああぁ」


両腕をベッドの上にのせ、顔だけをこちらに向けた真二は、悲壮感の漂う表情でそう言った。
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