私立秀麗華美学園
「冷たいんだよおおおぉぉ……」


言い終えると、真二はまたふとんに顔をうずめた。血統書つきの犬の毛並みのような茶色い髪の毛も、今日は元気がなさそうに見え、あんまりくるくるしていない。

未樹、馬渕未樹が冷たいのか。そーかそーか。姫が冷たいからってその落ち込みようか。
冷たくされたぐらいでそんなに落ち込んでたんじゃ、俺なんか常に深海3000mだ。


「ふーん……まあ、お前らにすりゃ珍しいが、たまにはそんな日も、あんじゃねえの?」

「ここんとこずっとなんだよ、それが。めし誘ってもしょっちゅう断るし、よく一人で出掛けるし、昨日なんか俺が『夏休みになったら海行こうな』って言ったら、冷たい声で『行けたらね』なんて言うし……」


じわじわじわじわと、真二の体からは淀んだオーラが発生しているかのようだった。
行けたらね、ってそれのどこが冷たいんだよと言いたくなったが、確かに馬渕の言葉しては気のない部類に入るのかもしれない。それにしたって、だ。

俺は自分のベッドの上に座りなおし、机の上にあったペンで真二のわき腹あたりをぐさぐさとやった。


「山の天気と女心は変わりやすいんだよ。そのうち馬渕の機嫌も良くなるって。めそめそしてるぐらいなら俺を見習って、ご機嫌取りのひとつでもしてみやがれ」


真二は腕の隙間から俺を一瞥した。お気の毒に、というような表情だった。あああ腹立つ! 気の毒なんかじゃねえっての!


「何が言いたいんだよその目はあああ!」

「いやあ、あんなこと言ったそばから言うのもなんだけどさ、可哀そうだよなあって。和人、優しいからさあ」

「あのな、おだてても何も出ねえぞ」

「何にも出さなくていいから頼み聞いてくれよ!」


真二は俺にきちんと向き直ると、子犬みたいな目をうるうるさせて言いやがった。


「花鳥風月に、依頼する! 未樹の不機嫌を直してくれ!」


真二は握ったこぶしを俺の目の前に突き出すと、頃合いを見計らって、ばっと開いた。

思った通り、そこには2番目に価値の大きい硬貨が、4枚並んでいたのだった。
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