私立秀麗華美学園
俺が寮へ戻った頃、時刻は7時をまわっていた。

ショックで意識が朦朧とした中でなんとかプリントは終わらせたのだが、職員室へ提出に行くと担任の榎木先生に用事を言いつけられたからだ。あのおばはん、今度口元のしわにおしろいが溜まっていても絶対教えないでいてやる。



ため息交じりに金の装飾が施されたノブをひねって部屋へ入ると雄吾の姿はなかった。


寮は大抵が2人部屋で、俺は雄吾と、ゆうかは咲と相部屋だ。制度を適用している生徒のうち男子寮がスペード寮、女子寮がハート寮。2つは食堂等いくつか共有スペースがあり繋がっている。
フリーの生徒用の寮が、お察しの通りクローバー寮とダイア寮。同様の構造になっているらしい。


時刻も時刻だ。部屋にいないということは食堂だろう。





「おっ、和人、遅かったやん!」


思った通り食堂に3人の姿はあった。


ここの食堂はセルフサービスだが、一声で瞬時に駆けつける給仕が厨房でスタンバイしている。
大部分のメニューが日替わりで、種類数は100を遥かに超える。
五つ星レストランのバイキング並みの「食堂」なのだ。


食堂には他に20人ほど生徒がいた。

だだっ広い食堂にこれだけの数。頭上に煌めくシャンデリアが泣いている。
電気代勿体ねーとか思う俺は学園の生徒として認めていただけるだろうか。


生徒たちはほとんどがペア同士でテーブルを挟んで向かい合い、食事をしていた。
親の決めた婚約者と、食事の時間までを共にしているのだ。

それが俺たちの日常。
敷かれたレールの上を走るような生活。
そんな日々に、疑問を抱き反抗する生徒はいないのだろうか。
生徒たちの心の内の、本当のところはよくわからない。


こんな景色を見るたび、なぜかこの世界を客観視することしかできない自分がどこかにいることに気づかされたりする。



今日は、緑茶とうどんにしよう。
周りには、トリュフやらキャビアやらフカひれやら、美味、珍味という名のブランドを背負った食べ物が並ぶ。
そんな中で迷わずすうどんに手を伸ばす自分は、果たして月城の家名を背負い立つ人物であってよいのだろうか。
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