私立秀麗華美学園
声は届かない。もう一度。息を吸おうとして、乱れた呼吸と合わずに咳き込む。膝に手を置いて声を絞り出す。


「ゆうかっ…………」


視界の端で傘が揺れたのが見えた。一瞬置いて、ゆうかが振り返る。
俺の姿を見つけると、そのまま道を引き返してきた。


「かっ……和人……!?」


冷戦状態だったことも忘れたかのように、ゆうかは慌てた声を出して俺に駆け寄ってきた。


「何してるのよ!?」

「ゆ、ゆうかが……げほっ、ジムの方向かったって、咲から……聞いて、」

「だからってどうして傘も持たずに!」


俺の方へ差し出してきた傘を、ゆうかの手ごとつかんでとどめる。


「ゆうか」


めったと見ない、焦った表情をしたゆうか。
したたり落ちてくる水滴が邪魔だったので、頭をぶんと大きく振る。


「やめろよ」

「え?」

「ダイエット」


ゆうかは口を大きくぽかんと開け放ち、俺に不可解そうな眼差しを向けた。

俺はできるだけ真面目な表情でそれに応える。


「…………そんなことを?」

「え?」

「言うために、傘もささないで、この雨の中……?」


「ごめん」という言葉が口をついて出そうになったが思いとどまる。
代わりに、ゆっくりとうなずいた。
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