私立秀麗華美学園
――――


「今、何分?」

「丁度30分……45分発だから、十分間に合うな」


終業式の翌日に咲と雄吾が帰省してから2日後。
ゆうかと俺は大きなスーツケースを転がしながら、駅までの道を歩いていた。


「暑いけど、今日はまだましね。風が吹いてる」

「そうだな」


とはいえ街路樹にとまって鳴くセミの声はけたたましく、日差しはその枝葉の隙間を突き刺してくるようだった。
普段は隅から隅まで空調設備の行き届いたあの煉瓦造りの学園の中にいるため、なおさらそう感じるのだろう。


半歩前を歩くゆうかは白いワンピースに身を包んでいた。

この服は中学1年の時、誕生日にうちの両親が贈ったものだ。シンプルな形と風を通す軽い素材がお気に召したらしく、以来夏になると必ず着てくれている。
去年、丈がミニワンピになってしまったとぼやいていたが、それはそれで似合っていると咲や雄吾に言われ(俺は何でもかんでも似合うって言うから)、この服は現役活躍中なのである。

丈はともかく、成長期の少女が、4年前の体型維持できるか、ふつー。

ダイエットを止めておいてよかったと、姿勢良く石造りの階段をおりていく白い姿を見ながら改めて思った。


「ふう……ほんと、まだまだね、時間」


駅につくと、ゆうかは駅舎の時計を見てため息をついた。

学園の最寄り駅の名前は「学園前」という。学園が創設されるのと同時にできて、長期休暇が始まるたび、この駅と、一番近い新幹線の駅や空港前の駅とだけを結ぶ、臨時列車が運行されることになっているのだ。


ゆうかに荷物を預け、切符を買いに走る。帰ってくるとゆうかはキャリーケースの上に乗っかって足をぶらぶらさせていた。

しばらく待つと列車が来たので、乗り込んで、大きな荷物を車内のボーイに預ける。
ボックス席で向かい合って座ると、ゆうかがまたため息をついた。





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